Cross Talk
研究対象は、「椅子」ではなく「座る」。
前代未聞の「動く椅子」が生まれるまでの道のりとは。
研究対象は、「椅子」ではなく「座る」。
前代未聞の「動く椅子」が
生まれるまでの道のりとは。
Introduction
01
物語のあらすじ
「一般的な椅子づくりのセオリーをベースにしても納得のいくものが生まれない。これはもう、ゼロベースで新しい独自の人間工学の理論を考えるしかないなと思いました」。そう語るのは、30年以上にわたってオフィスチェアのデザイン・開発に携わってきた木下だ。木下がリーダーとなり、何度も試行錯誤を繰り返して生まれたのが、座面が360°自由に動くオフィスチェア『ing(イング)』。その『ing』をベースにした『ingLIFE』の開発に携わった前田は、「とにかく、『座る』を追求し続けました」と語る。一体、完成までにどのような実験が行われたのか。そして、前代未聞の椅子を手がけた2人が描く未来とは……。
プロジェクトメンバー
※取材当時
-
ワークプレイス事業本部
商品開発
プロジェクトリーダー木下 洋二郎
1990年入社
-
ワークプレイス事業本部
商品開発前田 怜右馬
2017年入社
実験グラフ
02
Project Story
03
Q.
プロジェクト発足のきっかけは?
- 前田
- 僕は『ing』が開発された後にこのプロジェクトに参加したので、プロジェクトのそもそものきっかけや経緯を改めて木下さんに聞いてみたいです。最初は、ご自身の体に合う椅子を求めていたんでしたっけ?
- 木下
- そうですね。背骨の形って、目には見えないですが人により若干異なっていて、もともと自分の背骨のS字は他の人より強いため、一般的な椅子が合わないんです。だからといって自分に合うように作ると、多くの人には合わない。そこで、10年以上前から自分にも多くの人にも合うオフィスチェアを作ろうとチャレンジしてきました。しかし、何を試してもうまくいかない。多くの椅子は、その体型差に合わせるためにランバーサポートという腰部の調節を用いているのですが、その調節範囲を広げても合わない。これはもう一般的な椅子づくりのセオリーから離れて、一から新しい人間工学の理論を考えなくてはいけないと思いました。そこで大切にしたのは、椅子ではなく、「座る」という動作そのものを追求すること。
- 前田
- 今もこのプロジェクトに受け継がれている考え方ですよね。座る際の感情、多種多様な座り方、座るという文化についてなどを紐解いた上で、心地よい「座る」を実現する方法を考える。プロジェクト発足時、もっといえば30年以上前から木下さんは「座る」を追求しつづけてこられたんですね。
- 木下
- 座ることへの興味が尽きないからこそ、ここまで飽きることなく椅子づくりに励むことができたんだと思います。座り方や姿勢について、座るとは何か、もっといえば人間とはどうあるべきかという哲学的な問いを追いかけつづけているんです。「人間の骨格は立って歩くために進化してきたため、座る行為はそれに矛盾する。なぜそれでも人は座るのか?」など。デザイナーというより、研究者や学者に近いかもしれません。
- 前田
- わかります。答えのない問いを毎日うんうん唸りながら考えてますよね。
Q.
一番注力したポイントは?
- 木下
- 一番力を注いだのは、とにかく座って座って座りまくること。定量データや理論だけでは座り心地は判断しきれないので、プロトタイプをいくつも作成してできる限り自分で座ったり、他のメンバーにも座ってもらったりと実体験の機会を増やすことを心がけました。そんなある時、起き上がりこぼしのように重力で揺れて戻るタイプの椅子を作って放置していたら、関係のない社員がそれに乗って楽しそうに揺れている姿が目に入ったんです。「ああ、人って楽しいと勝手に身体を動かすんだ」。そう気づき、これをもっと具現化できないかと考えました。調節機能で人に合わせるのではなく、調節機能をなくして自由に身体を動かしたくなるような椅子を作ればよいのではと。そこで、座面が前後左右360°重力で自由に動くオフィスチェア『ing』を開発しました。
- 前田
- 木下さんたちの努力によって『ing』が完成した2年後、会議室などでも使えるように『ing』をカスタマイズしようというタイミングで、私もこのプロジェクトに参加することになりました。ただ、ちょうどその時期コロナ禍で在宅ワークが急増していたので、会議室向けではなく在宅向けにプロダクトの方向をチェンジしたんです。とはいえ、メカニカルな印象を払拭するためにサイズダウンした機構設計にすることや、空間に馴染みやすいリビングライクなデザインにすることは元々決まっていたため、そこまで大きく方向性を変えることなく比較的スムーズにシフトチェンジできました。
シフトチェンジしてからは在宅ワークの方のニーズを紐解き、インテリアとしても楽しめるデザインに変更した他、どんな座り方にも対応できるよう座面の大きさを変えたり、作業に集中できるよう『ing』よりもゆったりと動く仕様にしたりと、細かな部分まで調整を重ねて『ingLIFE』が完成しました。在宅ワーク向けという企画を元にさまざまな変更は行っていますが、『ing』から追い求めてきた、心地よい「座る」を座面の揺れで実現するというコアコンセプトはぶれずに形にすることができました。 - 木下
- 『ingLIFE』を開発する時も、実体験を大切にしましたよね。自分たちで実際に自宅に持ち込んで使用したり、家族で暮らしている社員の家に送って使用感をヒアリングしたり。
- 前田
- その結果、社員だけでなくそのお子さんが宿題をする際に積極的に使用していることが分かり、『ingLIFE』の可能性が広がりましたよね。「働く」にとどまらず、「学ぶ」にも役立つプロダクトだと。
Q.
本プロジェクトが目指す未来とは?
- 前田
- 「椅子の座面が360°動く」という機能自体が市場としてはかなり新しい価値なので、まだまだジャンルとして浸透しきれていないと思っています。ですのでまずは「動く椅子」というジャンルをしっかり育てていくこと、それと同時に認知度を上げていくことが直近の目標です。
- 木下
- 認知を拡大していく上でカギになるのは、『ing』という“モノ”ではなく、その背景にある「座る」という“コト”への想いに共感してもらうこと。人間は座っている時、書く、読む、考える、PCのキーボードを打つなど、静止しているのではなく動いているんだ、そうした行動を制限するのではなく、ブーストするのが「動く椅子」であり、『ing』なんだ。そう気づいてもらうことが大切なのだと思います。
- 前田
- いつか、「え、君まだ椅子動いてないの?」なんて会話が日常的に交わされる日が来たら最高ですね(笑)。そんな日を夢見て『ing』をさらに進化させていきたいです。また、先ほども話したように、私たちが追求しているのは椅子ではなく「座る」ことそのもの。オフィスワーク以外にも人が座る場面はいくつもあるので、椅子以外の「座る」という領域にも『ing』の技術を展開していくのが長期的な目標です。
- 木下
- そんな未来を実現するためには、デザインやエンジニアリングといった領域で区別するのではなく、包括的な視点からプロダクトを開発することが大切です。そのために必要なのは、分野の枠を超えて興味を持てる人材。コクヨではそうした方が活躍できる機会が増えていくと思います。
- 前田
- 木下さんが今言ったことと似ていますが、今まで通りの開発プロセスやデザインに縛られず、新たな方法を提案できる人材が必要です。そしてコクヨにはチャレンジできる環境がある。そこにワクワクできる人にぜひ入社していただきたいです。
バランスボールに座っている感覚で、座面が360°自由に動くグライディング・メカが座ったときの上半身の負荷を解放。
前傾姿勢でPCワークをするときも、背にもたれてアイデアを練るときも、座るだけで自然に 働きやすい姿勢に整える「ingLIFE」。
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