Challenge Story 2年目社員たちに託された一大プロジェクト
CREATION STORY

Challenge Story 2年目社員たちに託された
一大プロジェクト

終了から2年以上が経った今でも、コクヨ社内で事あるごとに話題に上るプロジェクトがある。現在、コクヨの東京における本社機能を担う「東京品川SSTオフィス」を企画・設計・構築したプロジェクトである。2017年10月にオープンしたこのオフィスは、それまで都内3カ所に事業別で分散していた事業所を一つに集約することでシナジーを生み出し、コクヨという企業ががさらに高いステージへと進むために実施された。そしてこのプロジェクトの最大の特徴は、企画から実施まですべてを当時入社2年目の若手社員たちが中心になって行なったということだ。もちろんプロデューサーをはじめ他にも中堅メンバーたちが加わっていたが、彼らはあくまで若手のサポート役であり、舵取りを行なったのは入社2年目の若手たち。コクヨで長らく語り継がれることになりそうなこのプロジェクトについて、当時の若手3人、中堅メンバー1人が振り返った。

プロフィール写真 伊藤 豪規

伊藤 豪規
Kouki Ito

経営管理本部 総務部
FMユニット
プロフィール写真 五反田 萌

五反田 萌
Moe Gotanda

ファニチャー事業本部
ワークスタイルイノベーション部
プロフィール写真 石井 一東

石井 一東
Kazuharu Ishii

ファニチャー事業本部
クリエイティブデザイン部
1グループ
プロフィール写真 尾内 健知

尾内 健知
Onouchi Taketomo

経営管理本部

2016年10月~12月

入社2年目の若手たちに託された、
コクヨ東京新オフィス構築計画。

2016年10月、コクヨ霞が関オフィスにあるファニチャー事業本部の入社2年目の若手社員4人が、別室へと呼び出された。4人とも設計部でオフィスのデザイン・設計を担当する社員である。石井一東(2015年入社)は、何か仕事でミスでもしたかなと恐る恐る指定された会議室に向かった。
「そこには同じ設計の同期3人がいて、4人で顔を見合わせたけど誰も呼び出しを受ける理由が思い当たらない。いったい何があるんだと話してるうちに、ようやくプロジェクトリーダーの方が現れたんです」(石井)
同じく五反田萌(2015年入社)によれば、おもむろにそのプロジェクトリーダーが口にしたのは4人にとって思いもかけない内容だったと言う。
「都内の主要事業所を1カ所に集約する新オフィス構築計画がある。そのプロジェクトを若手4人でやってみないか、という話でした」(五反田)

インタビュー写真 入社2年目の若手たちに託された、コクヨ東京新オフィス構築計画。

ピンとこなかったというのが、4人の感想だった。当時まだまだ入社2年目、ようやくお客様のオフィスの一部のデザイン設計業務を任されるようになってはいたが、オフィス全体のデザイン設計はもちろん、案件そのものを取り仕切った経験など無かった。言われていることの具体的なイメージが湧かなかったというのが正直なところだった。
「どこに新オフィスを作るのかもまだ決まっていないが、とにかく社長の若手に任せてみたいという意向に経営陣が賛同し、私たちに白羽の矢が立ったとのこと。周りが全力でサポートするから、頑張ってみるか? と言われ、この時はまだ、どれほど大変なことか分からないまま4人とも『はい』と答えました(笑)」(石井)

若手たちのチャレンジは全社員に大きなインパクトを与え、それ自体が強烈なメッセージになる。

冷静に考えれば、コクヨの本社機能を担う新拠点の構築、それに伴う3拠点からの社員730人の引越を入社2年目の若手たちに託すなど無謀とも言えるプランである。それが会社の正式な決定事項となった背景を、当時経営企画室に所属していた尾内健知(2003年入社)はこう振り返る。
「当時は、新たなことにチャレンジする風土や事業を越えたオールコクヨのシナジー醸成が経営的課題に挙がっていました。私自身、経営企画の立場でその課題を扱っていたのですが、社長をはじめ経営陣はこの新オフィス構築が、会社にとって課題解決のための変化を起こすいいチャンスだと考えたのだと思います。若手が、自分たちが会社を背負う10年後20年後を考えながら自分たちのオフィスの構築にチャレンジする。それは当事者である若手だけでなく全社員に大きなインパクトを与え、それ自体が強烈なメッセージになるという狙いかなと」(尾内)

インタビュー写真 若手たちのチャレンジは全社員に大きなインパクトを与え、それ自体が強烈なメッセージになる。

こうして新たなプロジェクトが発足し、当時の品川オフィスにプロジェクトルームが設置された。発足メンバーである4人は通常業務を終えてから品川へ向かい、そこでプロジェクト業務を行なう日々が始まったのである。
「なぜ新オフィスが必要なのか、新オフィスはどうあるべきかを整理する作業から始まりました。まずは社長本人に、会社の状況をどう考えているか、会社の課題は何なのかをヒアリングして、社長と一緒になぜ自社ビルがあるにも関わらず、徒歩5分足らずのビルに移転する必要があるのか?を考えました。それが1カ月ぐらい続いたでしょうか、傍から見ると、まるで社長と4人の子どもたちみたいな状況だったでしょうね(笑)。対象部署や移転先が決まらないうちはプロジェクト自体が社内でも極秘だったので、上司以外の同僚には2年目研修に取り組んでいる、ということにしていました。」(五反田)
社長直轄の体制で新オフィスプランの骨子らしきものを組み上げると、4人は次に現状調査を始めた。各事業部がどんな組織体制でどんな働き方をしているのか、どんな関係性の中でどんなコミュニケーションを交わすのか、各事業部にアポイントを取って訪問し、ヒアリングした実態を新オフィスプランに反映していく作業である。
「4人ともファニチャー事業部でしたから、ファニチャー事業部のことは知っててもステーショナリーなど他事業部のことはチンプンカンプン。この現状調査を通じて初めてコクヨという会社の全体像をつかめた気がしましたね」(石井)

プロジェクトルームで社長とメンバーでの打ち合わせ
プロジェクトルームで社長とメンバーでの打ち合わせ

2017年1月~3月

中堅クラスのプロデューサーやディレクターも参画。
彼らのサポートでようやく進む道が見えていた。

社長との直接会話による骨子策定から部門を訪問しての現状調査までで約2カ月を要したが、プロジェクトはそこで早くも足踏み状態に陥った。ここまで4人はがむしゃらに突き進んだが、何しろオフィス構築の経験がまだほとんどないから次に何をすればいいか分からない。そこで4人の足りない部分をサポートして道筋を示すために、中堅メンバーたちがプロデューサーやディレクターとして配置されたのである。
「あれで正式なプロジェクトの体制になりましたね。それまで4人の間で役割分担は特に無かったんですが、新たなディレクターはまず4人に何をしたいか聞いてくれて、それで私ともう一人が新オフィスの空間設計、一人がコスト・スケジュール管理、五反田さんが働き方・運用検討、計画浸透などを担当するという役割分担が決まった。それで足踏みしていたプロジェクトがやっと前に進み始めました」(石井)

インタビュー写真 中堅クラスのプロデューサーやディレクターも参画。彼らのサポートでようやく進む道が見えていた。

「他の3人はやりたいことが明確にあったんですが、実は私は何をしたいかが分からなくて、3人が担当する以外の役割を私がやる、みたいな決め方だったんです。でもディレクターは、私がちょっと思い付いたりしたことを『それいいなあ』と引き上げてくれました。そうすると私もアイデアをもっと出したい、と思って積極的になることができました。そのうちに、「与えられたことをやる」という意識から、「何をしたらもっと良くなっていくか?」を考える意識へと変わっていき、自分のやりたいことも見えるようになってきました。最終的には、そこで見つけたことが、今の私の仕事に繋がっています」(五反田)

目指すは「新しいオフィスで実現すべきコクヨの新しい働き方」の構築。

2017年1月、コクヨ社内に流れた新年挨拶ビデオで、社長は新オフィスへの大規模移転が行われることを発表した。詳細は明かされなかったが、とにかく新オフィス構築プロジェクトが進行してることが公けになったのである。するとプロジェクトにドライブがかかり、また新たなメンバーが加わっていった。先の尾内はここで「働き方検討委員会」のリーダーとして加わり、その直後には伊藤豪規(2015年入社)も加わった。
「新オフィスには、事業や部署ごとの風土の違いやセクショナリズムを打破してオールコクヨのシナジーを生み出す、という課題が課せられていました。『働き方検討委員会』は仕事の仕方の側面からその施策を検討するために組織されたんです。ここでコクヨの抱える問題を棚卸しして、それを新オフィスに反映していくということを行なっていきました」(尾内)

インタビュー写真 目指すは「新しいオフィスで実現すべきコクヨの新しい働き方」の構築。

「私は総務のファシリティマネジメント担当なので、オフィス移転が本業です。だから最初は『総務担当としてのオフィス移転の仕事』という意識が強かったんですけど、なんせ中心になって動かしてるのが同期の仲間たちだったので、気が合うし話しやすい。しかも同期がこんな重要なプロジェクトを動かしてるということが刺激になって、役割にこだわらずどんどん首を突っ込んでいきました」(伊藤)

尾内や伊藤が加わって推進していったこと、それは「新しいオフィスで実現すべきコクヨの新しい働き方」の構築だった。そのころには新オフィスの引越先が決まり、そこへステーショナリー、ファニチャー、コーポレートの3事業部が集約することも決まったので、3事業部の垣根を取り払って一つに融合させるにはどうすればいいかを検討していったのである。
「働き方検討委員会を通じていろんなアイデアが出てきました。著名人をお迎えする講演会や日本酒飲み比べ会などのイベントを開催しようとか、事業部と事業部の間にコーヒードリップコーナーを置いてみようとか、サイネージを入れて競合情報や社内情報を流そうとか。これらは現在のSSTオフィスで実際に採用されています」(伊藤)
こうした施策は事業部の垣根を超えたコミュニケーションを生み出す目的だが、もっと根本的な、コクヨの業務遂行の仕方や考え方の部分に切り込む課題にもメスが入れられた。

インタビュー写真

「委員会でのヒアリングの結果、コクヨ全事業部を通じての課題は、何か物事を決める時のリードタイムが長い、つまり物事を決めるのが遅いことだと分かりました。そしてその一因として挙げられたのが、検討や承認の手順、ルートの複雑さです。よってこれからのコクヨはもっとシンプルでコンパクトな単位で、俊敏に業務を行なう体制に変化する必要があるということになりました。それで新オフィスは、気が付いた時にさっと見渡して関係者を集め、そこでさっと決めて、さっと解散する『集合離散』型の働き方を実現するため、目線を遮る壁を一枚も作らず、高い什器も置かない、遠くまで見渡せるオフィスになったんです」(尾内)

2017年4月~6月

新オフィス見学会「HIKKOSA NIGHT」開催。
双方向型イベントで社員たちの関心を高める。

2017年4月、コクヨ社内報「PLAY WORK」号外が発行され、その中で正式にSST新オフィスへの移転が発表された。コクヨ各事業所の前では出社する社員に「号外です!」の声と共にこのチラシが手渡されたが、品川オフィスでは黒田社長が自らビルの前に立って、社員たちにチラシを手渡した。
「出社するとビルの前で誰かがチラシを配ってて、気になって近づくとなんと社長本人だったということで社員たちはびっくりしたと思います。SSTオフィスのオープンは新しい働き方のスタートという重要な意味を持ちますから、社員たち一人ひとりが自分ごととして捉えてほしい。それを伝えるためにサプライスを与える意図でした。もっとも社長もノリノリでしたけど(笑)」(尾内)

新オフィス見学会「HIKKOSA NIGHT」開催。双方向型イベントで社員たちの関心を高める。

さらに2017年6月には、まだ工事前のSST新オフィスに社員たちを招いて見学会が開催された。堅苦しい説明会ではなくケータリングやお酒を振る舞うパーティ形式の見学会である。題して「HIKKOSA NIGHT(ひっこさないと)」。参加はチケット制とし、そのチケットを有志の若手たちが手分けして前日夜に一斉に全社員のデスクやロッカーに配っていった。
「朝、社員が出社したら全デスクにチケットが置かれ、フリーアドレスのフロアでは全ロッカーにチケットが貼られている、という演出で、これもサプライズの一環です。イベント名称も、新オフィスや移転に対して少しでもポジティブな、楽しそうなイメージを持ってほしいとみんなで頭をひねって考えました。伊藤くんが考えた、「HIKKOSA NIGHT」は、満場一致で採用になりました(笑)。ここまでやればどうしても社員の関心は高まりますから、当日は予想以上に盛況でした」(五反田)

見学会当日、品川シーズンテラス18階のまだ何も無い空のオフィスには、それを逆手に取って、VRで完成後のオフィスを疑似体験してもらうコーナーやコミュニケーションエリアのレイアウトを投票で決めるコーナー、新オフィスへの意見や要望を書き込むコーナーなど様々な仕掛けが設けられた。来場した社員たちはそれらを回って新オフィス見学を楽しみながら、早くも「お昼はどこで食べよう」など移転後の話で盛り上がり、声を弾ませていた。

(左上)配布した社内号外 (右上)サプライズで個人ロッカーにチケットを貼付<br />
                (左下)レイアウトの社員投票(右下)VRで新オフィスを体感
(左上)配布した社内号外 (右上)サプライズで個人ロッカーにチケットを貼付
(左下)レイアウトの社員投票(右下)VRで新オフィスを体感

2017年10月~現在

SST新オフィスオープン。

2017年10月2日、730人の社員が都内3カ所から移転して1カ所に集まり、SST新オフィスがオープンした。対話とUPDATEを繰り返して「変える」ことを楽しむ。問題解決のスピードと創造性を高める。人が自律的に集まって柔軟にチームを形成する。事業を越えた一つの集合体を目指す。そんな様々な想いが込められて誕生したオフィスである。コンセプトもデザインも従来とまったく違う新オフィスに最初は戸惑う社員もいたが、程なく新しいオフィスとそこでの働き方に順応し、新オフィスはプロジェクトメンバーたちの予想以上の早さで、そのポテンシャルを発揮していった。

SST新オフィスオープニングイベント
オープニングイベント
SST新オフィス内写真

振り返れば、それぞれの仕事の基礎を形作ったのが新オフィスプロジェクトだった。

インタビュー写真 振り返れば、それぞれの仕事の基礎を形作ったのが新オフィスプロジェクトだった。

あれから2年、SST新オフィスは「コクヨ東京品川SSTオフィス」としてすっかり社内外に定着した。プロジェクト発足当時入社2年目だった若手たちも今や社歴5年目を迎え、ビジネスの主力選手たる世代に差し掛かっている。彼らにとってSST新オフィス構築プロジェクトとは何だったのか、そこで何を得たのか、あらためて振り返ってもらった。

石井:「空間設計の仕事は、お客様から具体的な与件や要望を頂く場合が多いのですが、あのプロジェクトでは、それを自分たちで1から作るところから始まりました。様々な部署にヒアリングを行って情報を吸い上げ、各所と調整して最適かつこれまでにないデザインで空間に落とすという難しいお題でした。与えられたものをそのまま図面におこすのではなく、相手の考えを正しく理解した上で、どんどんこちらから提案をし続けるというコミュニケーションを起点にした進め方が、あの時自分の中に叩き込まれました。ただし、それは設計者には絶対に必要なスキルだと思いますので、そこで培った社内の人脈も含めて設計者として大きくジャンプアップできたと思います。あのプロジェクトを通して、今の自分の核となる部分が形づくられた気がします。」

五反田:「私はオフィスのデザインをするためにコクヨに入ったのですが、あのプロジェクトを通じて、オフィスデザインのもっと前段階、オフィスでの社員の働き方やオフィスをつくっていく中で企業文化を醸成していくこと、お客様が悩んでいることや困っていることを一緒に考えて、答えを見つけていくことを仕事にしたいのだとわかりました。プロジェクトの最中に見えてきた「やりたいこと」を話したら、ディレクターも周りのメンバーもチャレンジさせてくれて、だんだん自分の道が見えてきました。現在は「ワークスタイルコンサルタント」として、お客さまの目指す働き方を実現するお手伝いをしています。プロジェクトでの経験を活かして、社員の意識やモチベーションをどう上げていくか、計画・実践するといったお仕事にも関わらせてもらっています。」

伊藤:「私は入社してまず営業を経験して、それから総務に異動したんですが、最初は2つの仕事の違いというかギャップの大きさに驚きました。つまり営業は売れば周りに褒められるけど、総務は出来て当たり前だと思われる。総務は縁の下の力持ち的な存在なので仕方ないと言えばそれまでですが、最初は自分のモチベーションの保ち方に困りました。でもあのプロジェクトを通じて、自分で仕事の中に変化を見つけて、自分にしかやれないことにチャレンジすること、他人の目ではなく自分の中の信念に基づいて仕事することの大切さを学びました。そして不思議なことに、自分というものを強く持って仕事すればするほど、周りもそれを認めて評価してくれるようになるんです。だから今の自分の出発点になったのがあのプロジェクトだと言えますね」

コクヨの企業変化の起爆剤になったという意味でも、あのプロジェクトは大成功だった。

そして最後に、コクヨ自体はこのプロジェクトの成果をどう捉えているのかについて、経営企画のベテランの立場でプロジェクトに参加していた尾内がこう語った。

尾内:「第一線で頑張る先輩たちを見て後輩たちがそれを学ぶという従来の構図ではなく、むしろ先輩たちが若手に刺激されて新たに学びながら一緒にやっていくという構図、それが現実に行なわれたのがあのプロジェクトでした。入社2年目と言えばまだまだ学生に毛が生えた程度、という認識を持つ人もいるかもしれませんが、周りのサポートがあったにしろ入社20年目でも怖気づくようなプロジェクトを見事にやってのけたわけですから、先輩社員たちにしたら『俺たちもうかうかしてられないぞ』と当然思ったことでしょう。新オフィス発足から2年、コクヨの働き方や社内風土の変化が急激に進んでいる背景に、このプロジェクトの影響があるのは間違いありません。だから単に新オフィスへの移転がうまくいったということだけでなく、その後のコクヨの企業変化の起爆剤になったという意味でも、あのプロジェクトは大成功だったと思います」